長所をひろい伸ばす 豊富な知識と確かな指導力
こちらから押しつけるだけではなくて、一緒に作る感覚で指導することが多いです
―デザインファームラボではどのような方針で設計指導されていますか?
受講される方はそれぞれ仕事で実績とか経験がある方達なので、得意な分野とか補いたい分野があると思うんですね。それを尊重しながら指導するようにはしています。
また、みなさん目標を持って来ているので、こちらから押しつけるだけではなくて、どういう思いで建物を建てていきたいかということを聞き出して、その人に合ったエスキースを進めていけたらいいかなと思っています。
模型や絵も描いていただいたりして、できた物をみながら「いいですね。でも違うパターンもあるからやってみませんか」と、一緒に作る感覚で指導することが多いです。
日々の日常の中で感動する場面を多く作りたい
―先生は現役の建築家としてもご活躍されています。建築家として普段から意識されていることはありますか?
目指しているところは「お吸い物の出汁」のようなもので、どんな具材が入っても旨味を引き出せるような空間にしたいなと思っています。日々の日常の中で感動する場面を多く作りたいなと思っています。
建物って、できた時に面白いように作る人も多いんですけれども、私の場合は完成後もずっと気持ちよく住んで頂きたいので、そのためには素材をよく選んでいかないといけないと考えています。クライアントに馴染みの良い建材とか、経年変化でよくなる建材、あと組み合わせることによって良くなる素材もあるので、素材選びは慎重にしています。
あとは、私が勝手に作って、それを作品にして「これに住んで下さい」といったようなことではなくて、クライアントと一緒に作るようにしていますね。クライアントと一緒に設計すると、相手にとっても作品になるので、素材を愛でるというか、愛していただけるようになって、お家を綺麗にしてくれると思うんです。そうすると、そこを訪れた人も気分が良くなりますし、次は訪れた人の家も綺麗になっていったりして、どんどん良い気が広がっていく。
以前喘息持ちの方の家をリノベーションした時に、木材や漆喰など自然素材を使って設計したら、喘息が治って人生が変わったとすごく喜んでいただいて。それから親族をどんどん近くに呼んで、味噌汁の冷めない距離に3世帯住宅が完成するという面白い結果になったりしたこともありましたね。
―先生にとって、「良い建築」とはどんなものですか?
やっぱり行ってワクワクするものとか、心が晴れやかになるもの、あと長い間そこにあり続けていても美しいものですかね。心が安まったり解放されたりする空間というのが非常に求めているところで、たとえ人が住まなくなって人類が滅亡しても綺麗であるようなもの。骨格から美しい建物ですかね。無駄のないインテリアもエクステリアも一致しているようなもの。そういうものが良い建築なのかなと思います。
―最後にデザインファームラボをこれから受講する方へメッセージをお願いします。
これからコンピューターがどんどん発達して、3 D プリンターで普通の家ができる時代がやってくると思います。その時に、今まで通りルーチンワークで効率だけで仕事をしている人はダメだと思うんです。
日本という国は、実際住んでいる環境を見ると、お金儲け目当てで作ってるような建物とかまちづくりが非常に多くて、本当に使う人とか街並みのことを考えてないんじゃないかと思うものが多いと感じています。このまま感性に訴えてこないような街ばかりになってしまったら、そんなところで暮らしている日本人に良いものが作れるのだろうかとちょっと心配にもなっていまして。ここは意匠設計の人たちが頑張るところかなと。志を高く持って、理想を持って、常に最善は何かということを考えて提供していくことが、今後私たちがコンピューターに対抗できることなのかなと思っています。
ちゃんと味わいのある、感性に訴えかけてくれるような美しい街づくりを、共に頑張っていきましょう。