長所をひろい伸ばす 豊富な知識と確かな指導力
その人が持つと良いところを引き出してあげたい
―デザインファームラボではどのような方針で設計指導されていますか?
デザインファームラボでは、半年間かけて設計課題を仕上げ、それをポートフォリオ(作品集)にまとめるというところを担当させてもらっています。
建築は、数学のように答えが一つというものではないので、その人がどうしたいかで、それぞれにアドバイスしてあげられるんですね。なので、その人が持つと良いところを引き出してあげたいなというのはあります。
あとは、課題は個人個人でやるのが基本ではあるのですが、できれば興味のある人は他の人のエスキースに混ざってもらって、課題はマンツーマンで見ているんですけど、エスキースは4人になったり5人なったりする。それもすごく刺激になるので、そういったやり方することもありますね。
設計事務所や工務店に就職したけれども今の状態にちょっと不満を持ってるような方、または今後独立を考えている方、など状況によって教え方は変わってくるとは思うのですが、前者で言うと楽しいアイデアを膨らませるような課題に取り組んでもらったり、後者の場合で言うと実際の仕事を見たりすることもありますね。
過去にもそういう方がいたのですが、ある地方都市で工務店をやっている方で、授業に自分の仕事を持ってくるんですね。そうすると授業時間が完全に打ち合わせのようにになっていて (笑)。例えば、壁を立てて開口部も一切設けないファサードに、私が「沈黙のファサード」というワードを出したら、「これ(施主との)打ち合わせで使おう」とか言ってそれをメモしていたりして。そして翌年その彼はまたラボにリピートで入ってきて、授業中に「先生去年の完成しましたよ」と言って竣工写真を持ってきたりしていましたね。そういうのもすごく楽しいのかなと思っています。
―先生は現役の建築家としてもご活躍されています。建築家として普段から意識されていることはありますか?
自分の建築の特徴としては、既視感のない建築、あまり他で見たことのないような建築が結構多いですね。あとは本質というところにすごくこだわっていて、例えば「縁側」というと、普通床は板張りで軒が出ていて垂木が見えていて、という和のイメージで捉えると思うんですけど、それは既成概念で、縁側の本質というのは「外部でもない内部でもない曖昧な空間」というところだと思ってるいんですね。なので、床はコンクリートでもいいし、軒の部分は薄いスチールのシャープな板でも構わないと思うんですよ。そういう既成概念を疑うというところにはすごくこだわっています。
僕は写真がそんなに好きじゃないというのもあって、あまり写真を撮らないんです。目で見るよりは頭の中で見ようと思っていて、極力写真を撮らないで記憶に残すようにしてるんですけど、そういうものって絶対忘れないで自分の引き出しになるんですね。そこもすごく大事だなと思います。
―意匠設計力を習得するメリットは何だと思いますか?
僕らが求められるのは、その家族の特徴を捉えて「この家族には絶対こういう暮らし方があうはずだ」という、そういったところを考えることが大事だと思うんですね。そのためには、他の人と違うこと、自分が得意なこと、自分が他の人に勝てる部分、他の人と違う部分は何だろうという、そこを鋭くを鍛えることが大事なのかなと思います。
性能とか、既製品の部分というのは多分誰でもできることなので、それ以外の差別化をどう考えるかというところ。何でもそつなくできるよりは、どこか一箇所でもすごく突出してる人の方が魅力があると思うんです。この人なら、きっと自分の家も楽しいものを作ってくれるに違いない、と思われる事がすごく大切だと思いますね。
―デザイン力をアップさせるために必要なことは?
建築家って「発明家」じゃないと思うんです。発明家と言うと何もないところから物を生み出すと思うんですけど、建築家は発明家ではなくて「発見者」だと思っています。日本も含めた世界の名建築などをたくさん見て、自分の引き出しを増やす。それをより多く発展させる、ディベロップさせるということで新しいものが生まれるのかなと思っています。
―最後にデザインファームラボをこれから受講する方へメッセージをお願いします。
デザインファームはちょっと変わった学校で、設計に特化してるところがあるので、先生達も色々なタイプの人がいるんですね。なので、私がこういう風に言ってるからといってそれだけが正しいというわけではなくて、選択肢のひとつとして考えてもらえばいいのかなと思っています。まあ、いろいろ一人で悩むより、1回ラボに入っていろんな自由な発想とかそういうものも見てみるも大事かなと思います。